【徒然読書日記】 その50 チベットの焼身抗議

 

チベットの焼身抗議 (太陽を取り戻すために)

チベットの焼身抗議 (太陽を取り戻すために)

  • 作者:中原 一博
  • 発売日: 2015/10/05
  • メディア: 新書
 

 

国家による弾圧、抗議のための死、

政府に回収される遺体と情報隠蔽

 

これが現代で 現実に起こっている。

 

中国によるチベット人チベット仏教への弾圧に

反抗して100人以上のチベット人焼身自殺を

行っている。デモは警官と軍部に武力鎮圧され、

日々の監視と不当弾圧を受けた彼らには

個人単位で不服従を示すことで抵抗している。

 

服従したと見なされれば、より監視と不当な

扱いをうけることを彼らは過去から知っている

のだ。けれどその精一杯の抵抗も時間と共に

抑え込まれてしまう。世界は彼らが不当な扱いを

受けていることは認識していても中国の強大さ

のために口出しできない。

 

だからといって、なかったことにしては

ならないのだ。一人でも多くの人にこの事実を、

この必死の訴えを知ってもらいたい。

 

中国と日本、同じ儒教文化の国であっても、

日本では信仰の自由から学園や土地を支配される。

中国では弾圧によって国家指導部のために人権を

踏みにじる。

ここまで違いがでるものかと戦慄した。日本の

平和さに安堵するとともに、これらの悲劇が話題に

あがらない自分たちの無知さに悲しみを覚えた。

【徒然読書日記】 その49 アルケミスト

 

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)

 

 羊飼いの少年はピラミッドに隠された

宝を見つける夢を見て、宝探しの旅に出る。

 

最初は「前兆に導かれる、宇宙を味方にする」

などのスピリチュアル的な表現や夢を理由に

旅に出るストーリに違和感を覚える人もいると思う。

 

けれど私がこの物語から受け取ったメッセージは、

夢に向けて進んだ過程こそ大切なものであり、

その原動力となる「夢」は、たとえ荒唐無稽だと

しても追うべきものだということだ。

 

旅の途中で少年は得たものを失う時も、富を

築き得る瞬間もあった。

けれど少年は富に満足せず、夢を追い続けた。

そして旅の果てに少年は多少の富を得るよりも

大切な人生の芯となる生き方を得た。

 

夢を追うことそのものが人生を豊かなものに

する。そして、苦境にあっても考え方一つで

人は絶望にも希望にも揺れる。ある種幻想的な

物語を通して、前を向いて進むことを教えて

くれる。

これはそんな物語です。

【徒然読書日記】 その48 ジョナサンと宇宙クジラ

 

ジョナサンと宇宙クジラ (ハヤカワ文庫SF)

ジョナサンと宇宙クジラ (ハヤカワ文庫SF)

 

 

アメリカのSF小説作家、ロバート・F・ヤングの短編集。

約400ページの間に10の作品を楽しむことができる。

個人的に好きな作品は「ジョナサンと宇宙クジラ」、

「九月は三十日あった」。どちらもSF的側面が強い一方で、

文明に対する人間の姿勢を批判し、よりよいアプローチを望む

熱意のような感情が見える。

 

宇宙を漂うクジラの中に広がる文明世界との遭遇を描いた、

表題作でもある「ジョナサンと宇宙クジラ

自分達が生きる世界がクジラの腹の中とは夢にも思わない

住民達と終わりを迎えようとする世界の事実を知った

ジョナサン。そして彼が迎える選択は―。

 

未来社会における一般人の生活を描いた

「九月は三十日あった」

人間やアンドロイドが教師をする時代を経て、テレビの

画面を通して教育をすることが一般化した時代に時代遅れの

アンドロイド教師を購入した一家。けれど50年も前の常識を

振りかざす彼女(アンドロイド)に家族の意見は対立する。

―生半可な教養しかないコマーシャル・

      タレントと同様のテレビ教師―

―アイデアに窮して古典に走るしかなかった

              作家達(テレビ劇)-

現代にも通じるような主張が1962年に

掲げられていたことに驚く。

 

社会に対する風刺、幻想的な情景、ロマンティックな恋愛観。

一人の作家のさまざまな側面を作品毎に垣間見ることができる。

 

また、人智及ばぬ未知への期待として、大いなる存在や

その意志へ想いを馳せる瞬間が散見されるが、当時のヤングが

現代の我々をどう評するのかを考える時、

自分自身を見つめなおすことになるでしょう。

「一生の営為が、食っては寝る、その程度だとしたら、

 人間とは何だ?けものと変わりはない。

 造物主は前を見、うしろを振りかえりつつ

 我々に豊かな思慮分別を授けたもうた。

 その力、神のごとき理性を使わぬまま黴させておくのは、

 造物主の本意ではないはずだ・・・」

        作中「リトル・ドッグ・コーン」より引用

【徒然読書日記】 その47 ウエスト・ウイング

 

ウエスト・ウイング

ウエスト・ウイング

 

 

この本に言葉はなく、妖しい風景のみが

坦々と続いている。

 

大人向けのホラー絵本作家エドワード・ゴーリー

の作品の中でも個人的に特に好きな1作です。

子供の死を描くことが多いゴーリーですが、

この作品は唯一文章が一文字もなく

本当に絵だけの本です。

 

けれどその不気味さは随一だと思っています。

絵だけだからこそ、受け手の感じ方一つで無数の

ストーリーを紡ぐことができます。

「ウエスト・ウイング(西棟)」というタイトルからは

どこかの廃屋に迷い込んだ誰かの視点と思えます

が、ところどころ見える人物や影は一体なんなのか。

エストがあるなら東棟は?

主観者には一体何が起こっているのか。

 

個人的には表紙の無数の窓から覗いた先には、

まったく違う光景が広がっていた。というストーリー

などを考えていました。

 

私は読み手の中で完成する多様さというのが、本の

美しさの一つだと思っています。

自分のなかで広がり続ける物語というものを、

堪能させてくれるこの作品は私の心に強く

印象が残っています。

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【徒然読書日記】 その46 Fate/Requiem

 

Fate/Requiem 1巻『星巡る少年』【書籍】

Fate/Requiem 1巻『星巡る少年』【書籍】

 

 

これは新たなFateの物語。

紡がれるのは未来、

  荒廃した世界にあって秩序の終わりを為す者。

 

※真名等についてのネタバレを含みます。

聖杯戦争を経て世界は荒廃し、神秘は共有され万人が

個人個人の聖杯とサーヴァントを従える世界。

サーヴァントは現界すると同時に登録され、

情報は共有される。

そんな社会にあって、真名不明の少年

サーヴァントが主人公エリセの前に現れる。

 

非正規のサーヴァントを「処理」する

裏仕事を生業とするエリセは少年を保護しつつも、

大きな策略に巻き込まれながら、

少年の真名にたどり着く。

それは「ヴォイジャー」。

人の手によって作られ、

  地球から最も遠い宇宙を探索するもの。

 

数百憶kmもの距離を超え、地球へと戻った「彼」は

少女とどのような物語を紡ぐのか。

 

現在第一巻が発売されており、まだ伏線をいろいろと

敷いている段階ですが、気になる点がいくつか出ており、

今後に期待が持てる作品です。もうじき発売から一年が

経過するので、そろそろ新巻がでるのではないか

と思っています。

読んでいてわくわくすると共に、先が気になる作品なので

Fateシリーズにふれたことがある方には

ぜひ読んでいただきたいです。

【徒然読書日記】 その45 ラブセメタリー

 

ラブセメタリー

ラブセメタリー

 

 

近年LGBT問題が大きな話題となり、昔と比べ同性間

での恋愛が日の目をみるようになってきました。

アメリカなどでは同性婚を認める州まで出てきています。

そんな変化の時代にあってなお、決して社会からは

認められないだろうと言われている愛が二つあります。

それが近親愛と小児性愛です。

 

本作は異なる人物の視点から、小児性愛者の人々を

描いたものだ。異常とされる愛欲を持ち、社会の

レールから外れてしまった者・その愛欲に苦しむ者・

彼らを外側から観測する者。そこから見出されるのは、

この愛はどうしたところで幸福を齎すものではない

ということだ。

 

「僕は思うんだよ。子供にしか欲情しない人間に

 ならなかった幸運を、みんなもっと享受するべきだ

 ってね。」

作中にてある人物が語った言葉だが、社会において

人から認められない秘密を抱えることは、確実に

不幸の種となる。社会と異なる個性を持った者は、

人とは違う自分なりの生き方を見つけなければならない。

そんなことを考えさせられた作品でした。

 

近親愛については以前「私の男」と「奇子」で

言及していますので、よろしければ一度見てみてください。

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【徒然読書日記】 その44 蒼ざめた馬

 

蒼ざめた馬 (岩波現代文庫)

蒼ざめた馬 (岩波現代文庫)

 

 先日の「ジョーカー」を視聴して、

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犯罪者や鬱屈した社会を描いた作品を読みたくなり昔読んだ作品を引っ張り出してきました。

 

それは「蒼ざめた馬」。本職テロリストが執筆した革命活動のために過ごす日々を描いた作品です。

 

舞台は1900年代初頭のロシア。主人公は革命を志す社会主義者達の一人。革命後の社会を夢見ながら、殺人や想い人との別離に苦しむ若者だ。当時の社会が醸していた雰囲気というものを現代の我々は想像することしかできないが、社会への不満と怒りそしてよりよい未来を望んでいたことは伝わってくる。

タイトルがヨハネの四騎士をモチーフとしているように、本作の登場人物達はキリスト教の思想を強く持っている。理想のために血を流し続けなければならないことに苦悩し、良くならない現状に苦しみながら革命者としての道を歩んでいく。

 

社会の表舞台に背を向けて、殺人を引き留められながらも止まることはできない。そうして進み続けた社会主義者達の行く末を現代の私たちは知っているのだ。

一度この切なさと苦しみを、あなたの手で思い出してあげてください。

【番外編】 映画「ジョーカー」

台風19号が過ぎ去り澄み渡る空の下、

話題の映画「ジョーカー」を見に行ってきました。

 

ダークナイト」から10年以上を経て、多くの人を魅了したヴィラン・ジョーカーをどのように描くのか、非常に興味がありました。

 

結果から言うと、期待以上のすばらしさでした。

作品を一言で表すなら痛みと怒りに満ちた作品です。

爽快感や笑いとは無縁な切々とした苦しみが続いている。

そしてそれらは劇的なものではなく、私たちの身近にもありふれた悲劇なのです。貧困、周囲との不協和、虐待と障害。これらは連鎖する不幸であり、私たちの社会においても生まれるものです。

 

それらの中で必死に耐え忍んで生きている人間が、それに押しつぶされ振り切れてしまった結果の一つが「ジョーカー」なのです。

 

作中で興味深いセリフと一つに

「自分の人生は悲劇だと思っていたが、喜劇だったんだ。」

というものがある。それまでのストーリーで喜びなど

一切なく、絶望に染まって開き直った一言だ。

彼は支えてくれる人が一人でもいれば幸せだったろうに、それさえなかった。作中で恋人の描写があるのだが、

それは彼の妄想なのだ。妄想の中ぐらい大富豪や権力者になることもできるのに、彼にとっての幸せはたった一人の恋人がいることを妄想することで精一杯なのだ。

そしてそれすら現実でなかったことに気付き彼は本当の絶望の底に墜ちる。

 

自分には何もないと悟った彼は、犯罪者として名を挙げることになる。この話を見ていて、ずっと今年7月に

起こった京アニ放火事件を思い出していた。「無敵の人」などのフレーズと共に話題になったこの事件は、周囲とのつながりや守るものを何ももたない人が大きな犯罪へと至る危険性を広く社会に広めた。

 

本作「ジョーカー」は改めて我々にそのことを知らしめる作品となるでしょう。

 

ダークナイト (字幕版)
 

 

【番外編】 歌舞伎 野田版・桜の森の満開の下

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先日紹介した「贋作・桜の森の満開の下

【徒然読書日記】 その43 贋作・桜の森の満開の下 - Tatarianasterのブログ

歌舞伎版を見てきました!!

 

今回再演されたのはシネマ化されたもので、

歌舞伎演目を撮影して映像化したものだったのですが、

演者さんの表情や舞台演出をよく見ることができたので

むしろ良かったと感じました。

 

演目としては予想以上に演出が舞台とマッチしていて

見ごたえ抜群でした!!自然と笑いを誘うコミカルな

シーン、登場人物の激情を表す鬼気迫るシーン、

幻想的な儚さを漂わせるシーン。

130分という時間の中でさまざまな感情を揺さぶられ

ました。

 

特に主役を務める中村勘九郎さんの演技はすばらしい。

最終盤で汗をはらはらと流しながら、語り掛ける

シーンは迫真です。Youtubeに予告編も上げられている

www.youtube.com

のでぜひ一度ご覧になってください。

【徒然読書日記】 その43 贋作・桜の森の満開の下

 

贋作・桜の森の満開の下

贋作・桜の森の満開の下

 

 贋作は「にせさく」と読みます。

以前紹介した坂口安吾の作品「桜の森の満開の下」のパロディー的な作品坂口安吾アンソロジーといってもいいかもしれない。タイトルは「桜の森の満開の下」ですが、メインの登場人物は「夜長姫と耳男」から出典しており、こちらの要素の方が強いです。

【徒然読書日記】 その21 夜長姫と耳男 - Tatarianasterのブログ

 

満開の桜の下、果て無く広がる世界のどこかから異なる世界の住人たちが迷い込んできた

そんな風に夢想してしまったのは私だけでしょうか。

 

複数の坂口作品のキャラクターが登場し、原作のセリフなども引用しながらオリジナル展開で話は進む。私は2作品しか分かりませんでしたが、他の安吾作品からも出典している登場人物がいるかもしれません。未読の安吾作品を読んでみようという興味も湧いてきました!

 

原作2作を下地として、安吾作品の幻想的な世界観と無常さをうまくオマージュしており、古典作品に新しい息を吹き込んでいます。こういった作品との出会いがあると、一層読書の楽しみに引き込まれます。

小説もだが舞台化についても非常に気になる作品。言い回しが劇調なので、舞台で非常に映える作品だと思う。DVD化希望!!

 

2018年に公演されていたのを見逃してしまったのだが、最近再上映されたのでそちらについても近日中にブログに載せたいと思います。