【徒然読書日記】 その48 ジョナサンと宇宙クジラ
アメリカのSF小説作家、ロバート・F・ヤングの短編集。
約400ページの間に10の作品を楽しむことができる。
個人的に好きな作品は「ジョナサンと宇宙クジラ」、
「九月は三十日あった」。どちらもSF的側面が強い一方で、
文明に対する人間の姿勢を批判し、よりよいアプローチを望む
熱意のような感情が見える。
宇宙を漂うクジラの中に広がる文明世界との遭遇を描いた、
表題作でもある「ジョナサンと宇宙クジラ」。
自分達が生きる世界がクジラの腹の中とは夢にも思わない
住民達と終わりを迎えようとする世界の事実を知った
ジョナサン。そして彼が迎える選択は―。
未来社会における一般人の生活を描いた
「九月は三十日あった」。
人間やアンドロイドが教師をする時代を経て、テレビの
画面を通して教育をすることが一般化した時代に時代遅れの
アンドロイド教師を購入した一家。けれど50年も前の常識を
振りかざす彼女(アンドロイド)に家族の意見は対立する。
―生半可な教養しかないコマーシャル・
タレントと同様のテレビ教師―
―アイデアに窮して古典に走るしかなかった
作家達(テレビ劇)-
現代にも通じるような主張が1962年に
掲げられていたことに驚く。
社会に対する風刺、幻想的な情景、ロマンティックな恋愛観。
一人の作家のさまざまな側面を作品毎に垣間見ることができる。
また、人智及ばぬ未知への期待として、大いなる存在や
その意志へ想いを馳せる瞬間が散見されるが、当時のヤングが
現代の我々をどう評するのかを考える時、
自分自身を見つめなおすことになるでしょう。
「一生の営為が、食っては寝る、その程度だとしたら、
人間とは何だ?けものと変わりはない。
造物主は前を見、うしろを振りかえりつつ
我々に豊かな思慮分別を授けたもうた。
その力、神のごとき理性を使わぬまま黴させておくのは、
造物主の本意ではないはずだ・・・」
作中「リトル・ドッグ・コーン」より引用