【徒然読書日記】 その39 奇子‐あやこ‐
手塚治虫の怪作!
不道徳をこれでもかと詰め込んだマンガとなっています。
戦後日本の農村にて、大地主として君臨する天外家。その家には悍ましき不道徳が蔓延っていた。
GHQ、共産主義、殺人、隠蔽、脅迫、不倫、不義の子、近親相姦、監禁、遺産相続。
枚挙にいとまがないほどの泥沼具合に眩暈を覚えるほどだ。
前回紹介した「私の男」
でも述べたが、不道徳とはそれを隠すためにさらなる悲劇を呼び込んでしまうのだ。罪を隠すために罪を犯し、隠すために外部に対して排他的になっていく。
この作品で最も歪な存在がタイトルにもなっている「アヤコ」の存在だ。
父親が財産相続をおどしに息子の妻を奪い、生まれた子供がアヤコだ。けれど父親が病床に臥せってしまうと息子の手で蔵へと幽閉されてしまう。幼少期から十数年を閉じ込められて育ったアヤコにとって、接点を持つのは兄だけだった。そして兄は恋人でもあったのだ。
アヤコは通常の道徳観や価値観を持たず、開放されたとしても社会と関わることができない。天外家の不道徳の末に生まれてしまったのが「アヤコ」という存在だ。
この作品をどう捉えるかは人それぞれだと思うが、私にとってこの作品は社会道徳から踏み外すということに対する警告であった。罪が悲劇を呼ぶという原理をこれほどまでに体現した作品を他に知らなかったためだ。
これは複数の人間が集まったコミュニティーにおいては、現代でも変わらぬ法則であるだろう。彼ら彼女らの在り方は自分の人生を見つめなおす鏡とも成りえるかもしれない。
最近リメイク的な作品が発表されている。未読だが近いうちに手をのばしてみたい。