【徒然読書日記】 その38 私の男

 

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

 

 

それはおぞましき愛の形。禁断の関係の先は奈落へと続いている。

 

桜庭一樹さんの作品であり、彼女の初の直木賞受賞作品。

父と娘の近親相姦を描いた作品。『GOSICK -ゴシック-』シリーズ等のイメージが強かったため、この作品を読んだとき桜庭さんの作品ということが信じられなかった。初めて読んだ時は強い嫌悪感を感じると共に強烈なインパクトに打ちのめされ、夢に見てしまうほどだった。親子が互いを必要として、血縁という繋がりにすがっている。そしてその求め方も歪だ。

娘は元々別の家庭で育てられ、疎外されながら生きてきた。ゆえに家族を、そして自分の居場所を欲している。父親もまた、かつて実の家族と暮らしたことがなく、娘に母親の影を求めている。父親が娘に対して「おかあさああん…」と泣きながら縋りつき、娘がそれを受け入れて撫でている。このシーンを目にしたときは背筋におぞけが走り、ふるえさえ覚えました。

 

冒頭を現在として、章が進むごとに過去へと遡る構成をとっている。

時が遡るとともに二人の過去と、なぜそのような関係が生まれてしまったのかが露わになっていく。そこには関係を育んだ理由があり、人間的なやるせなさを感じてしまう。近親相姦とは、多くの社会によって認められておらず、公にできない関係性は新たな悲劇を呼び込んでしまうのだ。秘密が罪を呼び、罪は悲劇につながっていく。何か一つピースが掛け違っていればと思わずにはいられない。その関係が続く限り、未来にあるのは奈落しかない。

 

それゆえに彼は「その選択」を取ったのだ。

 

 

 

 

私の男

私の男