【徒然読書日記】 その31 ハーモニー

 

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

34歳で夭折した作家 伊藤計劃の作品。有望な新人として期待されながらもデビューからわずか2年後に亡くなり、完結した作品は3作しかありません。そんな、言わば伝説の作品と呼んでも申し分のない作品です。

 

未完の設定、シーン集や途中まで書いたものを別の作家さんが引き継いだものなどもありますが、それはまた別のお話。

 

本作は近未来幸福ディストピア世界を舞台としている。体内に機械を取り入れることで体調を完全に管理できるようになり、社会は完璧とも呼べるほどの福祉厚生社会へと変化していた。けれど、不足を感じない世界であってもそこに閉塞感を感じる人々はいる。これはそんな世界で幸福を約束する社会へと抵抗しようとした少女達がいた。

しかし結果は主導した少女は死に、主人公は生き残った。生き残ってしまった。機械に管理された体は自死を選ぶ自由を持たない。取り残されたという思いで生きていた主人公はやがて世界を揺るがすような事件の渦中へと巻き込まれていく・・・。

 

満たされているはずなのに、苦しみから逃れられない。自由なき幸福と苦しみに満ちた生どちらを尊ぶかは人によりけれかもしれないが、生きることの意味や人の魂の意味といった不変のテーマを現代に通じる価値観の社会を描きながら、問いかける本作は便利さと未来への不安の混在する現代日本人にぜひ読んでいただきたい。

 

実はデビュー作である「虐殺器官」の後の世界という設定があるのですが、キャラクターのつながりなどは特にないため前作を読んでいなくても十分楽しめます。

劇場アニメ化もされているのでそちらもぜひ!

 

 

ハーモニー [Blu-ray]