【徒然読書日記】 その20 カサンドラ
保安隊情報部に所属する諜報員、入江を主人公として紡がれる船中諜報戦物語。
戦争を体験し、戦時中の悪夢から脱せないまま、敗戦国から立ち上がろうと足掻く国家の中にあって描かれるのは数多の苦悩だ。苦しみから共産主義へ傾倒したもの、共産主義者に苦しめられ憎悪するもの、かつての敵国を恨むもの、未来のために利益を求める者、様々な思惑が絡み合い誰が敵かも分からない。
表題にもあるように諜報戦として観るのも面白いが、私が興味を引かれたのは歴史IFものとしての側面だ。
(以下ややネタバレ注意。本の真ん中ぐらいまで進む)
本作の舞台はかつての日本空母を改造した客船だ。
・・・アメリカ製の原子炉を原動力としていた。
原爆を落とされて間もない日本人にとってそれは悪夢のような選択だ。当然反発する人々は後を絶たない。けれど未来のために必要と判断してその手段を選んだ人々もいる。たとえアメリカの実験台に過ぎないとしても。
日本の歴史を考えればこの選択の重さに心揺さぶられない人はいないだろう。
原子力エネルギーと核兵器は別物だが、現代でもこの二つに対しては安易な判断を許さない。戦後間もない日本にて本作のような選択肢があったとしたら、一体歴史はどうなっていたか。その苦悩は以下ほどのものか。登場人物の心情としても、現代人として歴史の流れを楽しむにしても良しと、複数の視点から楽しめる奥深い物語となっている。